2021年07月02日

新規市場と参入戦略

2週間後に開催する日本画像学会技術講習会のインクジェット基礎講座の申込者に,事前質問を記入してもらっている.
その中に,「今後インクジェットで成長できる市場,新規市場は何ですか?」という質問がある.それがわかっていれば苦労しない,というのがインクジェット技術部会メンバーの反応でもあり,私もそう思う.
確かにインクジェットは様々な応用が考えられ,全く新しいアプリケーションのみならず,既存市場の既存技術に替わる可能性を持っている.現に商業印刷やテキスタイルをはじめとする様々な産業印刷市場に参入しており,バイオや医療の世界,3Dプリンタにも少しづつであるが広がりを見せている.しかしビジネスとして大きな成功を収めている事例がどれほどあるだろうか.
どの市場が有力とか,成長が期待できるというのは市場の特徴にも大きく関わるし,技術以外の要因も大きいので,この答えには私は直接答えないようにしている.技術以外の要因の1つには,以下に記載するようにその参入方法,考え方も極めて大事であり,ここををうまくやらなければ,いくら技術やアプリケーションが優れていても,大きく成長できないのではないかと感じているからである.
例えとしてアナログ印刷市場へインクジェットで参入する場合,インクジェットのデジタル本質を活かした参入の仕方をしないと,コストなどの従来の価値軸での既存技術との競争になり,なかなか前に進まない.もちろん将来的にはコストも含め,既存技術をすべての項目で上回れば問題ないし,そこを目指すこともあきらめるべきではない.
しかしそこまでいかない場合,つまり他の特質ではまだ負けているが,こういう新しい価値があるという場合には,従来とは違うサプライチェーンというかバリューチェーンというか,そこまで構築して参入すべきだと思う.
例えば自社のプリンタを導入した印刷会社が安心してビジネスできるという保証をしてあげるために,日本中の少量のジョブを集めるシステムを構築して運用し,集めたジョブを,プリンタを購入していただいた印刷会社に提供する,そういう仕組みまで合わせて提供しようと考えている会社,実際に行っている会社がどれだけあるだろうか(正直に言えば似たようなことをやっている会社はあるにはあるが,プリンタ(インクジェット)を提供している会社ではないので,中途半端ではある).2019年4月17日に書いた記事は商業印刷ではなく,非常にまれなケースだと思うが実践している会社もある.
新規市場に参入する際には,ここまで踏み込んだ戦略,および戦術をたてて欲しい.技術者は技術だけに責任を持つのではなく,その技術の活かし方にも目を配り,取り組んで欲しい.
posted by インクジェット at 15:29| Comment(0) | その他

2021年06月23日

ドメイン名詐欺?

3年前にinkcube.orgのWEBサイトを公開し,連絡先としてメールアドレスを公開した.メールアドレスを公開すれば様々な迷惑メールがくることは覚悟していた.念のためメールアドレスの一部を画像にしていたが,あまり効果がないようだ.
様々なセールスメール,怪しいコンサルや宣伝の勧誘,それにフィッシングメール.
ほとんどのメールは中身を見るまでもなく削除しているが,今朝来ていたメールは「inkcube.orgの役員への給与支払明細」というwordの拡張子がついたドキュメントが添付され,詳細はここ,というリンク付きメールだった.なかなか興味深い.
たいていのメールはセールスにしろ勧誘にしろメールの意図はわかるのだが,先週,あるメールを受け取ったときは,当初メールの意図を図りかねた.
以下にメール全文を掲載するが,要はinkcubeというドメイン名を他の会社が登録したいので,あなたの会社と関係があるのか,許可するのか教えて欲しい,というドメイン登録サービス会社からのメールであった.このメールに関しては「半信半疑」という言葉がぴったりで,[そういうこともあるのかな]とも思った半面,意図不明だが,これも怪しいメールの1種ではないかと思った.メール最後にある送り主の会社のURLは実在し,ほんとうにドメイン登録をする会社だったが,ここだけ画像になっているのも変だと思った.
Dear Sir,
The serious matter is regarding your company name inkcube registration, please forward it to your company’s leader.
Recently we received the registration application from DongHe Global Ltd, they want to register the inkcube brand name and some domain names. As an authoritative and responsible registrar,we are obliged to confirm if the company is your company’s cooperative partner. Also we need to verify whether you have allowed the company to apply these names.
Waiting for your response.
Best Regards,
XXXXX XXX
Senior Manager
Tel:+86 559-XXX-XXXX
Fax:+86 559-XXX-XXXX
Address:Floor X-XX XXXX XXXXXX XXXXX, China
ドメインサービス会社のURL(画像)

メールに返信するかどうか迷ったが,返信する前に少し調べてみようと思い,いくつかのキーワードで検索したところ,以下のサイトが見つかった.
https://squelchdesign.com/featured/chinese-domain-name-registration-scams/
ここには同様のメールが来て,疑ったもののその意図を明らかにするため送り主とメールのやりとりをし,その顛末がまとめられている.また同様のメールを受け取った多くの人のケースも紹介されていた.
それによれば,通常,似たドメインを登録されては困る,と返信するだろう(例えばinkcube.orgは登録しているものの,.comや.XXXのような似たドメインがあると困る,ということだな).そうすると依頼主に登録は難しいと説得したが,先方の意思は固い,というような返事が来て,最後はあなたのドメイン名を優先的に登録するので,登録料を支払え,という流れになるらしい.(メールのやり取りの途中に,依頼主を名乗る人からのメールも来るそうだ.違う役割が登場する様はまるでオレオレ詐欺みたい)
そして一旦やりとりが終わっても,異なる依頼人とサービス会社を名乗って同様のメールがその後も来て,登録料は高くなっているらしい.
なるほど,そういうことだったのか.まぁ,登録料を払っても登録されることはないだろうが.
posted by インクジェット at 10:01| Comment(0) | その他

2021年06月01日

誰のための報告?

どんな組織でも報告,あるいは提案をする機会は多い.
特に記憶に残る私の体験で,研究成果である新しい技術で新しい事業を起こすための事業プランやそのための組織,人材獲得を研究所を束ねる運営体に提案した時のことである.
同じ提案内容を,様々な機会で様々な人に話をしてもその価値を必ず理解していただいていたので,非常にわかりやすい内容だと思っていた.
しかし,運営体の何人かには全く理解していただけず,質問もあまり的確でなかったと思う.どうしても前に進めたい案件であり,その後何度か説明,提案の機会を得たが,結局キーマンである彼らの理解を得ることはできず,前に進めることもできなかった.

さて,報告,あるいは提案をする場面では,
@報告者が,報告先に理解してほしい場合(提案を了解していただきたい場合)
A報告を受ける人が,報告者に報告を求めた(聞きたい)場合(提案を求めている場合)
がある.もちろん両方の場合もある.上記私のケースも,新規事業提案を求める側面と,私が了解を得たい両面がある.

基本的に報告者と報告先との関係には上下関係がつきものであり,これにより本来の報告の目的がおかしくなることがある.
@のケースでは,聞く人(報告先)にわからせることが目的であるから,報告する人が相手がわかるように話す必要があり,わかるような資料を準備する責任がある.聞く人がわからない場合も,当然報告者が聞き手の状況を理解した上で,理解できるような最大限の努力をすべきである(資料の準備は言葉の説明など).
Aのケースの目的は,報告を受ける側が聞きたいのだから,話がわからない場合は,聞くほうも努力すべきである.あるいは事前に聞きたい要点をしっかり伝え,本当に必要な資料を用意させるなど,聞きたい話を引き出す努力が必要.
往々にしてAのケースであるにも関わらず,わからない上司が,「なんでこんな資料をもってくるんだ,俺が聞きたいのはこんな話じゃない」と怒っているのを見かけるが,これはおかしい.自分の聞きたいことが相手に十分伝わっておらず,報告者がこれを聞きたいのだろうと持ってきたものを違うと怒るくらいなら,事前にちゃんと伝えておくべきである.
話し手の方が十分に事前に聞きたいことを確認すべきという指摘もできるが,それは上下関係が関わるからでありほんとうはおかしいと思う.
posted by インクジェット at 15:58| Comment(0) | その他

2021年05月26日

責任をとる

今も昔も「責任を取る」とか「すべて私に責任がある」とか言った人が,なるほど責任をとったね,と納得する場面やケースをほとんど見たことがない.
もちろん「責任を取る」とはどういうことか,ケースによっても異なるし,人によっても意見が異なるだろう.
それなりの地位や役職についている人は,その責務を辞任することで[責任を取った]とみなされる場合もあるし,自ら辞することで[責任を取った」という人もいるだろう.
もちろん正しくないことが起きてしまった場合の結果として,辞めることは当然あるべきであるが,辞めることですべての責任をとったことになるのだろうか.

失敗や問題の原因,自分の行動,decisionのどこが間違っていたのか,何故間違っていたのかを,関係者のまえでReviewすることこそが,責任の取り方として重要な方法の1つではないだろうか.
自分のDecisionが間違っていても,そのときの状況で最善の結果として選択したことが理解されれば,モラルの低下も最低限で抑えられる.そうではなく明らかに選択のための認識の浅さ,間違いなどがあったのかどうかもReviewで明らかになるだろう.
会社にいた時も多くの間違いを見てきたし,「責任は私にある」,というのを聞いたこともある.しかしそういったReviewを見たことがない.終わったことを振り返るのが前向きでないという批判はあたらない.特に会社ではいっしょに進んできた仲間,メンバーは多くは今後も同じ会社で仕事をする.こういったReviewがされないで,失敗がくりかえされるとモラルの低下は著しい.もっとも「私に責任がある」といった人も非常にまれであったが.
posted by インクジェット at 15:53| Comment(0) | その他

2021年03月20日

労働生産性

先日「脱ハンコ」推進に関する講演を聴講した.電子での本人認証(担保)手段のトレンドや,その中で最も信頼性が高いPKI(Public Key Infrastructure)の仕組みをよく知ることができたので,講演自体は有意義だった.
脱ハンコや可能で効率化につながるペーパーレスはぜひ進めるべきであり,そこに異議を唱えるつもりは全くない.
が,気になったのは「脱ハンコ」と日本の労働生産性の低さを結び付けたような,つまり日本の労働生産性が低いのは「ハンコ」や紙中心の働き方のせいである,と直接言わないまでもそういうストーリー仕立てにしていたこと.講演の最初の方で日本はOECD加盟国で21番目に労働生産性が低い(2018年)とデータを示し,次に世界でハンコを公的認証に使っている国は日本と台湾だけであると紹介し,そして最後に脱ハンコの話をすれば聞いている人はそういうストーリーで受け取ってしまうだろう.
確かに多くの日本での働き方は生産性を下げている.我々の世代だと[生産性]→[テキパキ働く]というイメージを抱きがちであり,世界的に見ても残業時間が多い日本は間違いなく生産性は悪い.
ただし[労働生産性]には[物的生産性]と[付加価値生産性]という2つの指標がある.生産量や販売金額を分子にした[物的生産性]であれば,たしかにいかに効率的に働くか,に近く,脱ハンコや残業短縮はこの指標を大きく上げそうである.しかし今,一般的に使われ,日本が低いと言われているのは[付加価値生産性]であり,この[付加価値生産性]の分子は付加価値額である.いかに付加価値を生み出すかが[労働生産性]なのである.[付加価値]とは限りなく[粗利]でありGDPであり,一人当たりのGDPが労働生産性である.
であるなら,IT産業をはじめとする粗利の大きいビジネス,あるいは成長している大きな市場で,日本の企業が台頭できていないことが日本の[労働生産性]が低い元凶であり,そこを変える,すなわち儲かるビジネス,市場でいかに日本が成功し存在感を示すかが,日本の[労働生産性]を向上させることにつながるのであり,ここでは[脱ハンコ]はそれほど重要な因子にはならないはずである.世界の中で[労働生産性]が低い,ということを最初に課題に持ってくるならそういう話をすべきであろう.
ところでハンコ文化を持つもうひとつの国,台湾の[労働生産性]はどうなっているのだろう.台湾はOECDに加盟していないので,数値が公表されることはないのでわからない.ハンコと同様に紙上での認証ということでは同じ仕組みのサインを使っている国,アメリカの[労働生産性]は第3位で日本の1.6倍である.アメリカでサインの電子化が進んでいるとしても,脱ハンコやペーパーレスだけではこの1.6倍の差を埋めることにはつながらないのではないだろうか.
posted by インクジェット at 11:40| Comment(0) | その他