2021年07月29日

オフィス論争は終焉か?

衝撃的なニュースだった.HPがPageWide Prinheadによるオフィスプリンタ市場から撤退するという知らせだった.このニュースには残るはエプソンだけ,と書かれていたことからいつの間にかキヤノンも撤退していたことになる.
SOHOやSMB向けのシリアルプリンタの販売は続けるようだが,電子写真とまともに競合する市場からは撤退する.
当初,この状況を理解する合理的な理由が見つからず,インクジェット技術交流会のSNSにこの話題を振り,反応を見てみた.
社内での電子写真との競合を理由に挙げられる方がいた.これまでもオフィスにインクジェットが進出できない理由として社内競合は取り上げていたが(キヤノン,リコー,コニカミノルタ,旧富士ゼロックス,東芝テック他),HPは電子写真の自社技術を持たず(液体現像を除けば全てOEM),それゆえこれまでインクジェットで強気に攻めて来れたのではないだろうか.
他の方は「オフィスの文書は乾いたプリントが普通で・・・」,そう,結局長年慣れている状態(常態)から抜け出せなかった結果,レーザーバイアスと言い続けてきた状況の終末が,結局インクジェットがオフィスのど真ん中に入れず市場を確保できず,撤退となってしまったのだと,自己完結.
2016年から主にオフィス市場の「インクジェット vs. 電子写真」をテーマに3回の討論会を開催,話題提供やファシリテーターをして,何故インクジェットがオフィスで本格的に使われないのか,を徹底的に議論してきた.
もちろん(普通紙上の)画質の差は大きいが,ドキュメントベースではない現在のオフィスの仕事のやり方ではインクジェット画質は十分許容される.(今のオフィスではプリント物の多くは必要な情報を得たら廃棄されるかリサイクルされ,一時的なビューワーに過ぎない.そういう中で電子写真が優れている保存性や普通紙画質は選択基準にならないはず.)
むしろ低消費電力や安いボックスコスト(装置の値段)など,インクジェットの優位なところがどうして受け入れらないのかと.
これまで3回討論会をしてもまだ議論は足りず,第4回をやろうと考えていたがHP,キヤノンの撤退でもうこの議論はオフィスに関しては再開の必要がなくなってしまった.残るはエプソン.ここまで強気でやれて来れたのも碓井さんの思いが強かったからだと思っており,碓井さんの影響力が無くなってきたら,エプソンもどうなるかわからない(エプソンも電子写真を持たないから,続けざるを得ないだろうが).そうなればもう完全にこの議論は終わりを迎えるのだろうか.
で,ここからが結論.
実は電子写真もオフィスでの市場は縮小している.つまりプリント自体がオフィスから減ってオフィス全体の市場が縮小し,単にインクジェット側が先に出て行ってしまっただけ.
電子写真は出ていきたくても出ていけないだけではないか.
そういえば一番最近の上記討論会で私が準備した資料に
「それとも,このままIJがEPに追いつく前にオフィスでのプリントそのものが,なくなりはしないか?」
と書いていた.これだ!
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2021年07月21日

残インク量と消費者の不満

インクジェットに関する一般消費者の不満,あるいはネットへの投稿における話題を見ると,インクカートリッジ(タンク)交換時のインク残量,すなわちインクカートリッジを交換する(交換せよとのアラームが出る)際,実際にどれくらいのインクが残っているのか,あるいは実際にカートリッジを分解して「こんなに残っているではないか」というのが多いのではないか.先日もカートリッジを分解してその内部の詳細な写真を掲載しているサイトを見つけた.
カートリッジに残り,捨てられるインク量はランコストを決める重要な要因であり,コンシューマプリンタのみならず全てのインクジェットプリンタを所有,使う人にとっては重要な特性である.
プリンタメーカーの肩を持つつもりはないが,あまりコストをかけず(つまりインクカートリッジの値段を上げず)リーズナブルなコストでの残インク検知精度とアラームタイミングの結果が現状であり,決してインクを多く残してインクカートリッジでの儲けを増やしたいと思っているのではない(と思いたい).私の商品開発部にいた経験からもあえてそんなことはしないはずである.
コンシューマプリンタでは一般的には光学的な残量検知とピクセルカウント(何滴吐出したか)の併用で,インクがなくなるタイミングを予測し,アラームを出している.
当然リーズナブルなコストでの検出やカウントでは誤差が生じる.ただし[インク無しアラーム]はその誤差の中心で出すわけにはいかない(アラームが出たタイミングのプラスマイナス●%でインクがなくなります,という設定はできない).なぜなら早めになくなる方に誤差が生じた場合,アラームが出る前にインクが無くなってしまい,カスレや色相変化などの画像欠陥が出てしまう危険性があり,それは避けなければならない.個人で使っている分にはそれでも許してもらえる場面もあるだろうが,年賀状や高価な光沢紙のプリント途中での画像欠陥はやはり許されず,誤差のプラス側にアラームタイミングを設定せざるを得ない.
メーカーはリーズナブルなコストで誤差をさらに小さくする努力も必要であるが,消費者のため(欠陥を出さない)という思想に基づいているからこそ,インクがカートリッジに残ってしまうことがあることをもっと丁寧に説明すべきである.
また,インク残量少ない(無し)アラームが出たら,交換するまでプリントできないという仕様がコンシューマプリンタにおいて残っているとすれは変更すべきである.
posted by インクジェット at 16:18| Comment(0) | インクジェット

2021年06月18日

オーネゾルゲ数

今週,日本画像学会のICJ2021 Springを聴講した.
例年このコンファレンスは秋に関西で行われるもので,今年は秋に別の国際会議を開催するため,この時期にオンラインで開催した.
これまでこのコンファレンスにはインクジェットに関する発表は2〜3件程度しかなかったが,今年は招待や記念講演を含めれば13件の発表があり,全て関心を持って聞かせていただいた.発表者のみなさん,お疲れさまでした.
13件のうちいわゆる一般発表は10件であったが,特定の大学からの発表が多かったこともあり,シミュレーションや液滴吐出現象の解析に関する発表が多かった.
さて,今回の発表においてインクパラメータからなる無次元数のオーネゾルゲ数(Ohnesorge number)により,吐出現象を説明,特徴つける発表が2件あった.当日いくつか意見もありまだ課題はありそうだが,かなり関係付けができていた.続報を待ちたい.
インクジェットの研究にオーネゾルゲ数が使われているのを私が知ったのは,実はわりと最近である(もちろんレイノルズ数やウェーバー数を解析に使っていたのは古くから知っていたが).5年くらい前の海外の学会での発表で初めて聞き,あわてて参考文献などを取り寄せ多くの研究が行われているのを知った.オーネゾルゲ数は1936年にWolfgang von Ohnesorgeが発表した論文の中で用いた無次元数をのちにオーネゾルゲ数と呼び始めたらしいが,インクジェットの液滴吐出(連続噴射型も含め)に関し,この15年くらいで多くの発表が見られる.
前述したように私自身がオーネゾルゲ数に注目した研究自体を行ったことがないので,以下に述べる内容には間違った解釈があるかもしれないが,指摘も歓迎するということで書いてみる.
オーネゾルゲ数で様々な吐出現象を説明する,あるいは吐出現象と関係付けることは学術的にはとても面白いし,これまでにない見方をすることができとても意義があると思う.
一方,もし吐出現象との関係を見出し,最適な吐出現象(例えばサテライトフリー)を発生するオーネゾルゲ数を推定し,そこからインク物性(設計)に活かそうとしているとすれば,方向自体は全く正しいのであるが,現実として難しいのではと感じる.
何故かといえば,インク物性のWindow(オーネゾルゲ数に含まれる粘度,表面張力,密度)のうち,例えばまだ80%位が未経験領域で,経験済の20%からこの関係を見出して,残り80%の領域から最適解を効率良く見つけ出す,というのなら意味があると思う.しかしそもそもインクジェットで吐出できる物性のWindowはそれほど広くなく(特にオンデマンド型で),これまでのインクジェットの研究,開発の歴史の中でほぼこのWindowの中のインクは実験的に作られ,オーネゾルゲ数の概念がなくとも正常な吐出ができる範囲で(他の要求特性も含め)サテライトフリー含む好ましい吐出状態を得るためのインク設計が行われているのではないだろうか.その結果が今のインクジェットの現状ではないだろうか(つまり他の特性を満足する中でのサテライトフリーなどの実現が困難である状況).
ぜひ,オーゲゾルネ数をインク設計,あるいはヘッド設計や駆動条件にどう活かすのか(活かせたのか),関わらせるのか(関わらせたのか)も含めた発表を今後期待したい.
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2021年04月13日

インクジェットトリビア(3):サーマルインクジェットという単語

キヤノンが「バブルジェット」と呼ぶ方式は,学会等では一般的に「サーマルインクジェット」という名称が使われる.同じ方式で使われる「バブルジェット」はキヤノンが保有する商標である.
インクジェットにある程度精通した人なら,サーマルインクジェットとバブルジェットは同じ方式であることを理解しているが,中途半端なWEBや雑誌記事にはわざわざ別方式と分類しているものがある.何が違うのか聞いてみたいが,それはさておき.
「サーマルインクジェット」という言葉が初めて登場するのは,いつだろうか.これも私が調べた範囲であるが,最も古いのはキヤノンから出願された特許(特願昭55-129848)の請求項3にプリンタのプリントメカニズムとして「サーマルインクジェット」という言葉が記載されている.出願は昭和54年(1979年)であり,遠藤らによるキヤノンの最初の出願(特願昭52-118798)の2年後になる.
ちなみに英語表記の「Thermal Ink Jet」はキヤノン出願のUSP4,343,968に登場する.このUSPの出願は1980年であるが,優先権を主張している日本出願は上記の日本出願である.
さてバブルジェットが商標登録されたのは2003年(商標登録第4672134号)で,出願は2002年であり,わりと新しい.もちろん現在も継続して登録維持されている.
サーマルインクジェットの最初の特許に関するエピソードは,書籍にも記載し,セミナーや講演会でも話しているが,これまであまり話したことがない内容も含め,別な記事で改めて書いてみようと思う.
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2021年03月26日

インクジェットトリビア(2):請求項の多い特許

インクジェット関連で一番請求項が多い特許は?
それはキヤノンから出願され登録された第3188524号である.サーマルインクジェットヘッド(発熱体の組成)に関する特許で,なんと請求項が272ある.(登録時も272の請求項のまま)
1992年に出願され,1997年に審査請求され2001年に登録された.その後2009年まで特許料,いわゆる年金が納付され維持されている.審査請求の際の費用は(2021年3月時点の価格であり,1997年ではもっと安い)
基本料金+4,000円×請求項の数
であるから,現在では13,800円+1,088,000円かかるわけで(毎年の年金も請求時よりは安いがそれなりに費用がかかる),よほど抑えておきたかった発明だったのだろうか,それとも製品に採用したのだろうか.しかし特許権が消滅する前に年金支払いを止め特許権は消滅している.
世の中にはもっと多くの請求項を持つ特許(正確には出願)があり,
特表2007-514472は,実に請求項が19,368もある.さすがに審査請求はされていない.(審査請求に7千万以上かかる)
posted by インクジェット at 16:34| Comment(0) | インクジェット