2021年02月17日

AMC名古屋

エレファンテックのAMC(Additive Manufacturing Center)名古屋が始動し,縁あって本日11:00から行われたオンラインの記者会見に参加させていただきました.
インクジェット(+Cuメッキによるピュアアディテブ法)によるFPCの本格量産に乗り出したということは,DF含むインクジェットの応用展開を長年進めてきたものとして,"とうとう日本でも始まったか"と感慨深いものがありました.M化学やSE社,AMC名古屋設立への重要なパートナーも,これまで自らDFへの応用に取り組んでいたとは思いますが,なかなか進まずというか市場も広がらずじくじしたものがあり,エレファンテックの勢いというか切込みの方の巧みさ,もちろんピュアアデティブ法という優れた技術もあり,今だ,と思って一緒にやろうと思ってくれたのではないでしょうか.
記者会見の中でエレファンテックの清水社長がAMC名古屋ヘの期待として話されていた,
@製法ライセンス供与含めた世界のマザー工場となるべくというビジョン,Aインクジェットイノベーションセンターを目指すという力強い意思,さらにB大企業とスタートアップの共創実証拠点を目指すという狙いに大いに期待したいと思います.
Bに関し,清水社長が言われた「大企業の持つ"当たりまえ"の技術,K/Hの伝承は,スタートアップにとって大きな価値になる」,これは私がPrint4Fab2017の基調講演やICJ2018特別講演で話した言葉そのものです.清水社長が私の講演を聞かれたのではないかと思うくらい全く同じ事を言われていました.当時,私は大企業側への提言としてこの話をし,inkcube.orgやインクジェット技術交流会を設立したのですが,スタートアップ側からも全く同じことを言われ,自分の考えが間違っていなかったと改めて感じた記者会見でした.もちろんinkcube.orgも技術交流会も今回の件に貢献しているわけではありませんが,私の活動が将来こういった大きな成果に結びつくような貢献になればと願っています.
ただAのインクジェットイノベーション拠点はちょっと言い過ぎかな,とも思います.いや言い過ぎで良いのですが,そのためにはもっと別な切り口や取り組みを仕掛けて欲しいと思います.正直,ここはまだ欧州の方が視点が高いと思いますし,見習って欲しいと思います.
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2021年02月11日

昔話(2)

サラリーマンなら誰もが感じることかもしれないが,会社時代,私は上司とそりが合ったことがないし,大きなケンカもした.それが出世できなかった理由の1つだと思うのは,これもよくあるサラリーマンの勘違いなのかもしれないが...
昨日書いた商品とは異なる市場向けの自社製品を開発するにあたり,会社としても力を入れ期待した証かもしれないが開発部は営業部も新設した事業部になり,別の部署から知らない事業部長が着任した.インクジェットではない他の商品では実績を残したやり手の事業部長だったらしい.
それまでの彼の成功体験なのかもしれないが,直観(直感)を大事にし,それをとことん尊重する人のようだった.着任当初は私もその直感にはまったのか,随分重宝されていたと思うが,あることで大げんかをしてその後,随分不遇をしいられたと思う.
今日はその話ではなく,私が中心に進めていたヘッド開発(方向)から大きく飛躍したヘッドを提案させる,というので事業部長がヘッドチームから若手を選抜し事業部長直轄のBタスクを発足させた.そしてそのリーダーには(ヘッドチームからの干渉をなくすため)ヘッドとは全く無関係の管理職を充てた.
こういう仕掛けは別に悪いことではないし,新しいことを提案させるために,従来の組織から切り離すというのはイノベーションの常とう手段である.しかし問題だったのは,あまりにヘッドの知識をもたず,タスクの提案内容の’スジ’の良し悪しを判断できない人をリーダーに据えたことか.タスクの活動期間,検討内容はヘッドチームにも共有されなかった(これもよくあるケースで,干渉を防ぐためには悪い事ではない).
さて,6か月後,タスクから提案されたのは具体的な施策はなく,@ノズル表面処理レス,Aメンテナンスレス,Bヒートシンクレス,だった.もちろん大胆な提案に事業部長は喜び,この3つを進行中の商品にも採用すると言い出し,これを実現するためにタスクメンバーはその後も具体的な検討に進んだ.
確かに当時,新しい商品向けに開発していたヘッドのプロトタイプは巨大なヒートシンクを持っていたが最適化していたわけではなく,とりあえずあるものを付けていたのであり,それをさらに小さくすることは方向としては間違ってはいなかった.が,きちんとエネルギー収支を考えて最適化する必要があるし,ヘッドチームとしてはヘッドの製造プロセスを大きく変える予定があり,その後最適化するつもりであった.が,その後@Aは当然実現できるわけはなく,Bのみタスクメンバーは小さなヒートシンクを設計し,それが最終製品まで採用されるという悲劇が生まれてしまった.
実はその当時,発熱体基板の製造を自社で保有していたNMOSのプロセスから,パートナーのCMOSプロセスに切り替える予定があった.残念なことにNMOSで実績を積んできた発熱体基板の層構成や膜厚はCMOSでは完全に再現できず,特に蓄熱層であるSiO膜の膜厚を薄くしなければならなかった.蓄熱層が薄くなれば当然インクへの熱伝達を保つためには投入エネルギーを大きくする必要があり,それなりのヒートシンクサイズが必要になる.しかし事業部長下のタスクの唯一の提案となってしまった小さなヒートシンクサイズは[憲法]となってしまっていた.小さいヒートシンクに大きなエネルギー投入,何が起こるかといえば,寿命への影響,ヘッド昇温による画質変化.この問題もまた私のヘッドチームが背負わされることになった.
対応にはこれまた苦労の連続だったが,バンド内で駆動条件を切り替える新規な駆動方法を考案し,特許化して採用し,寿命もぎりぎりの方策で達成できた.
寿命達成のための方策で電源の安定幅を狭く要求したのだが,皮肉なことに要求先の電気屋さんはあのタスクのリーダーだった.そしてその時にそのリーダーが私に言った言葉が今でも忘れられない.「お前らがバカだから,俺たちまで苦労させられる」
「その言葉はあなたに言いたい」と言いたかったが,言わなかった.私が強い技術者になった瞬間である.
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2021年02月10日

昔話(1)

先日記載した技術者層の薄さに起因して苦労した話を今日1つ,明日もう1つ.
他の会社ではどうかわからないが,ヘッド屋とインク屋はコミュニケーションがうまく行っていないことが多いのではないでしょうか.偏見もあるかもしれないが,どちらかと言えばインク屋さんのほうが自分達の世界に閉じこもりがちな傾向を感じていた.私のいた会社では,当初,お互いの拠点も遠く離れていたので,メールや電話による連絡はしていたが,顔を付き合わせ,お互いの現場で現物を見て話をすることは非常に少なかった.もちろんその後,インク屋さんも同じ拠点に集合することになるが,この話はまだそうなる前のこと.
最初に手掛けた商品は,プリントエンジン(ヘッド,インク,メンテナンス手段)の他社へのOEMであった.プリントヘッド構造は協業していたX社のヘッドをもとに私が考案し特許取得したA構造を採用することになっていた.しかし吐出滴サイズの大きい黒インクのリフィル性能を上げるため,黒インクには同僚が提案したリア抵抗の低いB構造を採用することになった.長年の研究成果として生み出したA構造はカラーインクにしか採用されず,残念であったが仕方のない選択だった.
ところがOEM先にサンプル(プリントエンジン)を渡す5か月前になり,システムテストで黒インクのみ画質上の大きな欠陥(抜け等)が発生し大問題になった.解析の結果,Face Floodingの発生であった.このシステムテストの直前,黒インクがいわゆるファストドライインクからスロードライインクの組成に変更になり,粘度が大幅に低下したのが原因であった.プリントヘッド側はインクの変更を知らされていたかどうかはもう記憶がないが,インク変更の決定の際,当然インク開発サイドで吐出安定性を確認したものと考えていたのだと思う,がそうではなかった.スロードライインクの方が,文字画質などが向上するのは間違いないが,決定にはプリントヘッドの技術者は関わらず,画質の向上という点のみでインクの変更を決めていたのだった.あまりにお粗末な話だった.急遽,Face Floodingを抑えるためB構造の(マスク変更せず製造プロセスのみで変更できる)あるパラメータを変え,流路抵抗を大きくした.その結果,Face Floodingによる大きな抜けは発生しなくなったが,小さな抜けが多発し,どうしても無くすことができなかった.シミュレーション等からリア抵抗が低いことによるバブルの後方への広がりとこれに伴うノズルからの気泡の吸い込みが原因と推定された.この仮説からリア抵抗があまり低くなく,カラーに採用したA構造で黒インクをプリントした結果,欠陥は全く起こらなかった.これより黒インクにもA構造を採用することを提案し,承認された.この時点でOEMへのサンプル出荷まで2か月半前までに迫っていたと思う.当時,プリントヘッドのチームはお互いの仕事ぶりを信頼しており,とても良いチームだった.黒インク用のヘッド構造を変えれば,10数枚のマスク変更になり通常なら3か月はかかる.1ヵ月後のバレンタインデーを目標にし,まず最低のプロセスのみ変更して黒インク用のA構造を作製し,同時にその結果がうまく行くという前提で,フルマスクを変更し2か月後のホワイトデーまでに完全な黒インク用A構造を準備する.それぞれバレンタインデー作戦,ホワイトデー作戦と命名し,ヘッドチーム一丸となって取り組んだ.
結果,作戦は成功し,予定とおりサンプルを渡すことができた.
遠い昔の話だが,自分の(技術の)周囲に枠を引き,そこだけに収まってしまうことの危険性と無意味さを強く感じた経験の1つであった.
posted by インクジェット at 16:25| Comment(0) | インクジェット

2021年02月09日

トラブルフォローとインクジェット概論

インクジェットの基礎講座(概論)の動画講座(LMS)を始めました.これまで会場で受講者を目の前に話していた内容とほぼ同じものです.参加者の顔や反応を見ながら説明を追加したり,話を脱線させる方が参加者も理解が進むと思うので,新型コロナ感染症が終息すれば今後も会場で行いたいと思いますが,新型コロナ感染症が終息した後もテレワークの機会は増えると思われるので,ぜひ,このLMSを活用して欲しいと思います.
インクジェットのセミナーでは,「プリントヘッドの高効率化」,「高速産業向けプリンタ」や「安定吐出」など,Specificなテーマでも話しますが,圧倒的にインクジェット全体をお話する概論のセミナーが多い.もともとプリントヘッドを専門としていたのに,なぜ,全体のことが理解できて話ができるのか.その1つのそして大きな要因として,私がインクジェットの研究・開発をしていた会社でのインクジェット技術者層の薄さ,数の少なさを挙げることができると思います.
具体的な数は示しませんが,私が直接インクジェットプリンタの商品開発に携わっていた時(商品開発は7年間くらい,あとは研究所でした),コンシューマー,そしてビジネス向けのプリンタを開発し販売してきましたが,開発に関わる技術者の人数はおそらくC社,SE社の1/50〜1/100くらいしかいなかったと思います.私は自社製のプリントヘッドの全ての流路設計をした,まさにプリントヘッドの技術者であり,当時,プリントヘッド開発の実質的な責任者でした.
商品開発では,様々なフェーズでシステムのテスト(評価)が行われ,トラブルが見つかればすぐに解析し,修正をします.本来ならトラブルが見つかった時点で,そのトラブルの原因となる技術の担当,責任者が詳細な原因を究明して改善活動につなげるはずです.しかし層が薄かったため,とにかく吐出がおかしい,プリントがおかしいトラブルはたとえ本当の原因は何であれ,全てプリントヘッドにまず解析の責任が回ってきました(層が薄いというのには,現象からまず原因系を推測し分類できる統括的な技術者もいなかった).
もちろん本当にプリントヘッドに起因するトラブルもありますが,インク色材のロット差が原因だったとか,ファームウエアでの駆動条件の書き間違いという,まったくプリントヘッドに責任がないものがあまりにも多った.しかし,この一次原因(プリントヘッド以外に原因があること)を解明(データで証明)しない限りは,その(解析)責任から逃れることができませんでした.
商品開発のトラブルフォローは厳しいです.例えばシステムテストのトラブル結果が夕方報告され(SSM:Sun Set Meetingと呼んでいました),夜の10時ころからトラブルフォローの会議体(PMC:Problem Management Committee)が始まり,夜中の12時ころにプリントヘッド(がまず責任を負う)トラブルに呼ばれ,そして翌日のまた夜の会議体までに最初の解析結果を報告せよ,というハードなものも何度もありました.責任を持たされたトラブルの真の原因を解明して,本来の技術担当者に引き渡さなければ,いつまでも,そして多くのトラブルフォローに時間を割かれてしまいます.
今考えるとひどい話ですがこういう状況で,関連するあらゆる技術に精通し,技術同士の関連性への理解を深めてきたからこそ,今,単に個別技術の寄せ集めではない「インクジェット技術概論」のセミナーができるのだと思います.
幸い,体もメンタルも私は壊さずに済みました.
posted by インクジェット at 16:34| Comment(0) | インクジェット