2023年05月05日

論理構成力

前々回触れた新規授業科目企画書が完成し提出した.採用され,大学院生向けに15週の授業ができることを願っている.

今回もこの企画書に記載した評価の観点と基準について書こうと思う.授業のテーマは「情報出力装置概論〜可視化・具象化される情報価値の最大化〜」であり,情報出力装置,および関連する技術や仕組みに関する知識を学習し,さらに受講生それぞれが,情報価値の最大化をするための組織の在り方,標準化や特許戦略交えた技術戦略,さらには共有価値まで含めたサプライチェーンやビジネスモデルがどうあるべきかの仮説を立案することを目指している.

もうひとつの授業の狙いとして,議論や仮説構築を通じて考え方における受講生の論理構成力を磨くことも目指している.これまで多くの研究者・技術者との議論や論文査読において,主張内容はともかく,その主張に至る考えが論理的に展開できていない場面に遭遇することが多った.そこで指導方針と評価基準に示したのは,あくまでも1例であるが,
1. あなたの主張は何か,あなたはどのようにしたいのか[結論]?
2. あなたの主張のもとになる考え方,何故あなたはそのように主張するのか?
3. あなたの考えを支える客観的根拠やデータは何か,あるいは授業のどの点を根拠にしているのか?

私は所属していた会社内のみならず,さまざまな利害が対立する(メンバーによる)外部組織で,リーダーとして前進するための意見集約,それに基づいた実践を数多く行ってきた.またパネルディスカッションや公開討論会のファシリテーターも数多く務めてきた.会議での合意形成を進める上で,またディスカッションを有意義に進めるためには,上記3つの段階のどこで参加者が対立しているのか,あるいは合意できているのかを把握して対応することがいかに重要であり,効果的か身を持って体験してきた.
非常にわかりやすい例ではあるが,ある会議の出席者全員が「若手エンジニア向けの勉強会を開催しましょう」と意見が一致したとしても(1が一致),何故勉強会を開く必要があるのかという背景,考え方はまるで異なるかもしれない(2が不一致).この場合,勉強会の企画内容や対象者も含め,同じ名前の「勉強会」でも全く異なる企画を主張しているかもしれない.逆に「勉強会」だ,いや「飲み会」だと主張する企画内容が異なっても(1が不一致),若手技術者が他の領域の技術を知る機会が少ない,という理由が同じなら(2が一致),企画内容をいろいろ工夫することで両者の合意点を見つけることができるかもしれない.

これはあくまでも非常にわかりやすい一例であり,また実際の議論では1,2,3が混じった意見が多く,意見を言う場合でも(私も含め)毎度このようにきちんと構成を考えて話しているわけではない.
しかし,こういった論理構成は,主張の妥当性を高めるためにも非常に重要だと思う.課題とした提出レポートやプレゼンテーションでは,内容だけでなくこの論理構成も指導するとともに,評価の対象にしようと思う.
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2023年04月28日

加点評価

評価についてはまだいくつか書きたいことがある.
「減点評価」の改善として「絶対評価」もよく掲げられる人事制度改革ではあるが,「加点評価」も使い方によっては,さらに「減点評価」を強めることにもなる.

これも実際に経験したことがあるが,「加点評価」といったとたん,みんなが加点ポイントを言い出す.本当に秀でた加点すべき内容もあるが,そんなものがあれば従来の「減点評価」の時でも話題になり評価されている.しかし「加点評価」において出てくるのはほんどは似たような内容だったり,レベルだったり.
そういう中で順位をつけなければいけない.「絶対評価」ではなく実態は「相対評価」において.そうすると何が起こるかと言えば,結局何か減点ポイントを持っている人を下げることにより,順位をつけることになる.
これって減点評価そのものである.
「加点評価」といった時点であやしいのである.ほんとうに加点すべきポイントがあれば,上司はたいてい見ているし,従来の評価会議で挙がっている.だから「加点評価」と人事部が言い出した時点で他の目的があると思うべきである.

付け加えておくと評価会議には部門を担当する人事部の担当者も出席する.しかし担当者は制度を決めた本社部門の人事部ではなく事業所の人事Gである.板挟みで可哀そうでもあった.

これも余計な話ではあるが,「役職定年制度」(正式名称ではない)が始まったころ,役職定年を迎える人向けに研修(説得する会)があり,出席した.多くの参加者はまだ役職として頑張れる,頑張りたいと思っていたはずだ.最後の日の朝に本社の人事部長が来て挨拶をした.いろいろ話した中で彼が何と言ったか.「私は役職定年を迎えましたが,例外を2回適用しました・・・」って.参加者は例外があるなんて全く聞いてないし,制度を運用する当の本人が例外を適用するなんて・・・.研修中にもこの例外については説明はなかった.(感想文には文句を書きましたが)
各部門長がその権限を持っていることはあとで聞いたが,公にはされていない.こんなものです.
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2023年04月17日

新規授業と評価

大学院修士課程の学生向けに15週の授業を受け持つ可能性があり,この新規授業科目企画書を作成している.授業のテーマは,
「情報出力装置概論〜可視化・具象化される情報価値の最大化〜」
とし,2D/3Dプリンターの技術だけではなく技術進化論,組織論,ロードマップ,イノベーション,特許戦略,標準化戦略,ビジネスモデル,サプライチェーンや共有価値を交えながら,いかにして市場での情報出力機器が創出する価値を最大化するかについて講義し,学生と考えようと思う.
詳細な授業内容については実際に授業が行えるようになってから紹介したいし,将来,大学外でも若い技術者向けに実施したいとも考える.

さて,企画書にはどのように受講生(学生)を評価するのか,観点や基準を明確に記載する必要がありまとめている.このとき,会社内での個人実績評価でいくたびも問題になった,「相対評価」「絶対評価」のことを思い出した.

会社に入社し長い間,相対評価が当たり前のように行われていたし,社員も疑問を持つ人もいたが「相対評価」であることが明確になっていた.私がいた会社ではいつからだろう,会社を辞める15年前くらいだったか,会社(人事部)の人事制度の変更内容の目玉の1つに「絶対評価」「加点評価」への変更が掲げられた.絶対評価については2022年5月のコメントにも書いたように,評価者の力量が重要であり,会社も実績評価のフォーマットを変更するだけでなく,管理職に対し部下との面談における接し方などのトレーニングを行う研修を課し,私のもいやいやながら受講した.
しかしふたをあけてみれば現実は以前より厳密な「相対評価」であり,つまり評価会議においても評価レベルへの割り当て割合(%)は厳密に決まっていたし,その割合は以前より厳しく(上位レベルの割合が少ない)なっていたように感じた.唯一変わっていたのは,最上位のレベルと最下位のレベルが足されたことくらいだろう.
しかし新しい人事制度が始まり一般社員も徐々にそのことに気づき始めても,会社(人事部)は「絶対評価」という看板を外すことは決してなかった.

会社が事実上「相対評価」をとらざるを得なかった事情は何か? 評価者の力量のばらつきとそれによる評価者への不信感もあったのだろう.時代の流れでそう言わざるを得なかった事情もあるのかみしれない.しかし私も含め多くの人が感じ,必ず上がるのは人権費の抑制,あるいは狙い(毎年目標)の範囲に納めるためではないかということである.これに対して会社は数字を示して反論したことがあるが,全く納得がいくデータや説明ではなかったように記憶している.(人事部がこれをほんとうに「絶対評価」と信じて制度設計をし,導入したとしたら,それはそれで恐ろしい・・・)

結局,多くの人が持つこの疑問は事実なのかどうかはわからないが,「相対評価」が続いているのは事実であり,会社の状況を丁寧に説明し,だから「相対評価」をとっているのです,と説明すべきだと思う.会社の利益率,今後の見込み,会社を取り巻く状況や今後の投資の必要性,その規模,そういう会社の状況を正しく提示した上で,人件費はここまでしか確保できません,と.それが正しかどうかいう議論はあっても,まっとうな議論の開始にはなるし,社員の今後の正しい行動を起こすために必要なことだと思う.これも2022年5月のコメントに書いたが,評価については,とにかく丁寧に行うことが求められる.それで両者が納得できるものではないが,ひとを大事にするならその評価も大事にするのは当然である.
丁寧な進め方ということで,会社は評価会議での決定(部下の評価レベル)を,部下に説明し(フィードバック),部下からは説明を受けたとシステム上に登録する決まりになった.しかし,実際は「相対評価」で決まったレベルを,「絶対評価」の看板を掲げたまま部下に説明するのは苦痛でしかなった.
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2023年02月06日

コンバーテック2023と学会活動

先週,東京ビッグサイトで開催されたコンバーテック2023展に日本画像学会のブースを出展し,来場者に活動紹介を行った.また,最終日の2/3には会場でセミナーを行った.
昨年7月の理事会でこの展示会への出展とセミナーの企画・提案を行い,当日は多くの仲間の協力を得て,準備・運営ができた.
なぜ,ここに学会のブースを出展したのか? 画像学会(メンバー)の保有する知識・経験,活動は,これまでのプリンタ業界のみならず,様々な「画像」を扱う業界,会社で活かすことができるはずであるが,これまで日本画像学会を知らない,あるいはあまり関心がなかった業界や会社が非常に多いと感じていた.そこでこれらに積極的に出向いて日本画像学会の活動や,いかに貢献できるかを紹介しようとしたものである.もちろん最終的に日本画像学会への入会につながればありがたいが.

これまで学会で様々な新しい試みを提案し,実現してきた.交流会,4DFF,オーガナイズドセッション,基礎講座等々.「よく,それだけ学会活動に打ち込めますね?」と皮肉も込めて言われることもあるが,別に学会をどうこうすることが主目的でやっているつもりはない(もちろんそれもあるが).研究者・技術者として自分でやりたい,すべきだと思うことをそのまま素直にやっているだけである.

会社でこうすべき,こうやりたいと思っても.たとえそれが正しい,社会に求められているという信念を持って提案したとしても,多くはその客観的事実の議論の結果より,単に人事権をかざした上司の不理解,既得権の防衛本能で,理不尽にも却下されることが多くある.
しかし幸いなことに学会は(人事権がないという意味で)みな同じ立場であり,熱意のある提案に対しては,その意味の議論の結果で否決されることはあっても,人事権や既得権をかざした理不尽な却下はあり得ない.まさに自己実現の場の1つとしてとても良い場なのである.
その思いに共感した仲間がいれば,会社の垣根を越えて協力も得られる.そういう場としても学会は活用できる.

さて,ブースでは説明員も兼ねたので他の展示を見る時間がなく,ごく近所を散策したのみだった.が,面白い機能性液体材料を見つけ,新しい応用を思いついたので,以下の2つのシンプルな質問をしてみた.
1. 液体に機能性材料は,どのくらい含まれていますか(比率)?
2. どうやって機能性材料を硬化させるのですか?
極めてシンプルで本質的な疑問だと思うが,展示にその説明はない.最初に聞いた説明員は「う〜ん」次に紹介された説明員は私の質問におかまいなく,これまでの応用事例をひたすら説明するのみ.私がしびれをきらして再度上記の質問を繰り返すと,こんどは「御大」とでも呼ぶような人のところに連れていかれ,同じ質問をすることに.その御大は何を言っても「はい,できます」ばかりでまったくこちらの質問の意図を理解しようとしない.またまた耐え切れず質問を繰り返すと,技術の人間が見学に行っているので,戻ったら説明に行かせます,というのでブース番号を教えた.・・・それでその後どうなったか,当然誰もくることもなく,その日は終わってしまった.どうなの,この会社? ほんとうに大丈夫か?

・・・後日談.コンバーテックから10日後,大学から連絡があり,私宛のハガキがきていると.コンバーテックで尋ねた会社の御大からで,「ご要望があれば説明に伺います」と・・・.いや,あの時に説明して欲しかったな.渡した名刺には私のメールアドレスがあるのに,記載してない大学の住所を調べてハガキを送ってくるか?
やはりこの会社? ほんとうに大丈夫か?
posted by インクジェット at 12:16| Comment(0) | その他

2022年12月19日

おじいさんのむかしばなし(その2)

おじいさんのむかしばなし(その2)をアップしました.
inkcube.orgの公式サイトの「代表紹介」ページの下の方に,リンクがあります.
https://www.inkcube.org/founder.html

(その1)を読んでいない方は,併せてお読みください.
英語版もあります.
posted by インクジェット at 12:59| Comment(0) | 3Dプリンタ